「いま札幌に足りないのは、エンターテインメントだと思う。」
これは2010年の夏頃、まだオープン前だった札幌中心部のレンタルショップに、広告として掲げられていたキャッチコピーである。
レンタルショップの宣伝ではあったが、私はこれを見て「演劇にとってもその通りだ!」と、心密かに思ったものである。
私はここ2〜3年、演劇鑑賞にハマっている。昨年は大小問わず様々な公演、計13回劇場に足を運んだ。東京や大阪まで観に行った事もある。観た作品もバラバラで、劇団四季の「ライオンキング」はもちろん、地元である札幌の小さな劇団の公演まで様々だ。
つい先日も、小林賢太郎氏が脚本・演出・出演する「うるう」という演劇を観てきた。
氏の大ファンである私は胸を弾ませながら劇場に向かい、舞台の上で繰り広げられる世界をたっぷりと堪能し、時に笑い、時に涙した。このブログを書いている時点でまだ公演中の舞台なので多くは書くことができないが、心温まり、笑顔で劇場を後に出来る素敵な公演だった。
「うるう」のポスター。1人の男と1人の少年の物語。
劇場では演劇鑑賞仲間とも合流し、開演前は緊張を分かち合い公演後はそれぞれに感想を語り合った。演劇鑑賞の醍醐味は演劇を観るだけではなく、一緒に見た人、そして役者と同じ時間を共有する所にあると思う。同じ内容で同じ会場であっても、公演日によって表情が微妙に違う。その瞬間瞬間を共有できるのがなによりも楽しいのだ。
演劇が趣味であるため、一人で演劇を観る事も多々ある。しかし、そこで受けた衝撃や感銘といった、感情の揺らぎを誰にも伝えられずに自分の中で燻らせてしまう。それは少しさみしい。
しかし、演劇を一緒に観に行こう、と人を誘うのは本当に難しい。
北海道には劇場が少ない。そして劇場が少ない分、有名な役者が出演する演劇も少ない。そして、一回の演劇のチケット代もかなりかかる。有名な役者が出演するものとなると5〜7000円が相場で、それ以上のものも多くある。それが2時間弱の時間で消えていく。未知の世界のものにそれだけの金額を投じる事を簡単には勧める事が出来ない。
それでも誰かに勧めたいと思うのは、良いものを共有したい、ただその一心だ。
生で繰り広げられる世界に勝るものは無い。その場に居るだけで、その世界のパワーに魅了され、圧倒され、感じるものがある。その感覚を味わってほしい。あわよくば共有し、共感したい。その一心なのだ。
機会や経験がなければその良さもわからない。足りないと思うだけではなく、積極的に飛び込んでしまえる勇気と、それが出来る環境が生まれれば、きっともっと演劇というエンターテイメントが身近で楽しいものだと気がついてもらえるはず。
「いま札幌に足りないのは、エンターテインメントだと思う。」が、
「いま札幌で熱いのは、エンターテインメントだと思う。」
に変わる日を夢見ながら、私はこれからも演劇を楽しむだろう。